「こんな飲み方しちゃったの初めてだよ。なんか、頭がボーッとしてわかんなくなっちゃってさ。『ここも、お母さんと歩いたな』『お母さん、今度、こっちに行ってみようか』なんて、独り言言ってるうちに、どこ歩いてんだかわかんなくなっちゃってさ・・・」
昨晩、飲み過ぎて、迷子になって、警察に保護された。父の談だ。
もちろん、日本酒を飲み過ぎたせいだけではない。85歳。認知症という病名がつくかどうかはともかく、父は最近、認知力がハッキリ低下している。
夕方、ご近所の”安全パトロール”のお仲間と5,6人で飲んだそうだ。食べ放題・飲み放題で、みんながドンドン頼んでしまうので、父もドンドン飲んでしまったという。夜の8時頃前には店の前で解散。店は、家から50メートルほどの通い慣れた居酒屋だ。
しかし、なぜか父は90度違う方向へ歩き出した。
『加藤さんちの方に行ってみようか』などと母に話しながら。
母は昨年の10月の末に亡くなった。認知症で要介護2だった母を、父はずっと、2人暮らしで面倒見ていた。その母に話しかけながら、独り言をいいながら。本当に隣に母がいるような気がしていたのか、それとも独り言と分かってつぶやいていたのか、父の中でも判然としないところがあるようだ。
違う方向に1キロばかり歩いた。昼間は交通量が多いが、道の両側にはまだまだ畑が広がる田舎道。50年以上も暮らしているご近所だ。でも、自分がどこにいるのかわからなくなった。。。
手を上げて、ヒッチハイクのように車を停めては、『○○幼稚園まで乗せてってぇ』と頼んだらしい。家は○○幼稚園のすぐそばだ。
『だけど、だぁれも乗せてくれないんだよなー』と父。(←当たり前だよ!)
なんとか家のそばまで戻って来たところで、警察の車が来て保護されたという。誰かが通報してくれたのだろう。絵に描いたような、かわいそうな徘徊老人である。
真冬の夜に、歩き慣れた道のはずが、自分がどこを歩いてるのか分からなくなった。どんなにか不安だったろう。。。
けれど、父の中では、母と散歩をしている幸せな時間でもあったのかもしれない。
夢と現実、あちら側とこちら側を、行ったり来たりしながら。
姉も私も、父を怒ったりはしない。こんな時に、認知力が低下した年寄りに対して、本人が自信をなくすようなことを言う必要はない。いや、言ってはいけない。本人が一番ショックなんだ。そりゃ、そうだよ。。。
『若気の至りだったね』と姉に言われて苦笑いする父、85歳。とにかく、ケガがなくて良かった。警察の対応もやさしいものだった。
翌日、父はたいした二日酔いもなく、恒例のご近所の ”麻雀会” に出かけた。さすがに、勝てなかったそうだが。。。(あ、賭けてないですよ、ご老人たちの楽しみの麻雀。メンバーの半分は女性なんだって)そこには、安全パトロールの ”年下” のお仲間もいて、昨夜の顛末を聞くと『ごめんねー。これからは、家までちゃんと送るからさ』なんて言ってくれてるらしい。・・・よかったね、父。
モカさんに話すと、『お父さん、よかったね。ちゃんと地域のつながりをお持ちだから。むしろ、わたしたちの方が心配しなきゃいけないんじゃない?。ご近所のお付き合いなんて全然なし・・・』と言われた。なるほど、そうだよなと思う。
今日はこのへんで。