落語の話です。
今、稽古しているのが、『平林(ひらばやし)』。古典落語だけど、短い前座話です。あらすじはこんな感じ。
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ある商家の小僧さん。名前は定吉が定番。「平河町の平林さんに、この手紙を届けて来ておくれ」と言いつけられる。しかし、この小僧さん、忘れっぽいのだ。
旦那「表通りをまっすぐ行って、一つ目の橋を渡った右手のあたりが平河町だ。あのへんで、『ひらばやし様のお宅はどちらですか?』と聞けば、みんな知っているから。行って来ておくれ」
定吉「でも旦那。お手紙ってのは、切手を貼って、ポストに入れると届くんですよ」
旦那「そんなことはお前に言われなくてもわかってる。これは急ぎなんだ。その場で読んでもらってお返事を聞いてきてほしいんだ」
定吉「そうですか。わかりました、旦那。すぐに行って参ります。・・・で、あたしは誰のとこに行くんでしたっけ?」
旦那「おいおい、今言っただろ。平河町のひらばやしさんだ」
定吉「そうでした。では、行って参ります。・・・あ、そうだ。今日はあたし、お風呂の当番だったんだ」
旦那「お風呂なんか、ほかの誰かにやらせるから、お前は早く行って来ておくれ」
定吉「わかりました、行って参ります。・・・あれ?、あたしは誰のとこに行くんでしたっけ?」
・・・こんふうに、定吉は、行き先をすぐに忘れてしまう。手紙を持ってるんだから、宛名を読めばいいのだが、定吉は字が読めない。
出会う人びとに、宛名の読み方を尋ねるのだが、みんな答えが違う。
「これは、(平林)たいらばやし、と読むんですよ」
「これは、ひらりん、と読むの」
「(一)いち、(八)はち、(十)じゅうの、(林)もくもく、と読むんだ」
「ひとつと、やっつで、とう、きっきー、と読むんだ」
定吉は、すっかり、困ってしまう・・・。
この噺は、いろんなバージョンがある。東京と上方でも違うし、演者によって少しずつ違う。基本的に、前座時代に師匠に教わるネタですが、みんなそれぞれに工夫をして、面白いギャグ(=”くすぐり”と言います)を入れたりして、どんどん変わって来たんだと思う。
YouTubeを観ていると、こんなのもある。途中で定吉がお巡りさんに呼び止められて、「こら、信号は赤だぞ。信号は、赤止まりの青歩きだ。今は交通戦争の時代だからな、気をつけて行きなさい」と注意される。定吉は、それまで一生懸命忘れないように、「ひらばやし、ひらばやし・・・」と言いながら歩いていたのだが、そこから、「あかどまり、あかどまり・・・」に変わってしまう。。。しかし、”交通戦争”って昭和30年代?。字の読めない小僧さんがお使いでウロウロしてないだろう。
最後の落ち(=”下げ”と言います)もいろいろ。
「道をまちがえて、迷子にでもなってたのか?」と言われた定吉が「いいえ、読みまちがえて、迷子になりました」と答える。これなんか、一番、素直な下げかな、という気がします。ほかにも、いろいろ(特に上方落語)とひねった下げが聴けるのも楽しい。
みなさんも、ぜひ、聴き比べてみてください。
お暇なときに。
今日はこのへんで。