昨日は、私たちの素人落語会がありました。私のネタはおなじみの古典落語『道灌(どうかん)』。会場には、父が来てくれてましたので、こんな枕を振りました(ネタに入る前のおしゃべり)。
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えー、一席、お付き合いをお願いいたします。
ちょっとうれしいことがございまして、というのは、最近、うちの親父があたくしの落語を聴きに来てくれるようになりまして。ええ、もう、わたくしの実の父親ですから、もう歳も歳でございます、今年で85。昨年、お袋が亡くなりまして、ひとりでおりますので、たまにはこういう所に来て、楽しく笑って過ごすのがいいだろうと、まあ、親孝行のつもりもありまして、誘い出しまして。
しかし、最初はこういうところに連れて来るのは少し不安でもございました。いえ、体のことじゃございません、親父は体は至って元気なんです。しかし、生まれてこの方、85年間、ただの一度も、寄席というところに来たことがなかったんです。ねー、もう、嘆かわしいでしょう?。不届きと言いますか、チコに叱られますよねー。
ですから、果たして、こういうところに来て楽しんでくれるかな、とそれがちょっと心配だったんですが、全くの取り越し苦労でございました。連れてきてみると最初から最後までよく笑ってくれましてね。終わった後も、あー、楽しかった。次も来よう、今度はいつだ?、とたいへん喜んでくれまして。また次も来ようということになりまして。
で、前回の落語会のあとも、実家に送っていきましたらね。
親父から、「今回はお前が一番良かったぞ。一番、声がよく出ていた。姿勢も良かったしな、着物も様になってきたんじゃないか」なんて褒められたりいたしまして。いやー、人間、いくつになっても、親に褒められるというのは嬉しいもんです。
やっぱり父親と息子というのは、うちもふだんはお互いむすっとして、あんまり会話はないんですけども、わたしも嬉しくなって、「えー、そう?。で、噺の中身はどうだった?。面白かった?」と聞きましたら、親父はちょっと返事に詰まりましてね。
(親父)「やっぱり、そろそろ補聴器を買おうかな」
聞こえてなかったんかい!という話なんです。いや、たしかにこのところ、だいぶ耳も遠くなっているなとは思っていたんですけど・・・
「だけど、最初っから最後まで、ちゃんと笑うところで笑ってたじゃない」
(親父)「そりゃわかるよ。聞こえてなくたって、やってる人の様子を見てれば、あ、今が笑うタイミングだな、って。そこで俺は、アハハと笑うんだよ。あとは、周りのお客さんが笑ったら、俺もすかさず、アハハって・・・」
ということなんですね。それで毎回、楽しかった、また来ようって言うんですから、もう、びっくりいたしましたが・・・。しかし、考えてみると、これが一番、健康に良い落語の鑑賞法かもしれません。
よく言われますように、人間というのは、面白いから笑うんではないんですね。何か楽しいことがあったら笑おう、面白いことが聞こえてきたら笑おう、そんな、待ってるだけの人生なんてもったいないわけでございます。まず笑う。ね。で、笑っているうちに、自然とこう、楽しくなる、愉快になる、これがもう健康の秘訣でございます。
ですから、皆さんも、今日はぜひうちの親父を見習って実践してみてください。今日もこの会場におりますから。これをやりますと、もう、うちの親父のように、いけしゃあしゃあと長生きができる、ということになってますので。
ちなみにですね、今、わたしが一番心配していることは何かと言いますと、今度、親父が補聴器を付けたとたんに笑わなくなったらどうしよう、と・・・
↑ 本人の前でこんな枕を振りました。
今日はこのへんで。。。